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AI OCRを使うことで、紙帳票の業務効率化にも寄与
RPAと組み合わせ年間約4万9千時間の削減に成功
伊藤忠商事は、繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において、国内、輸出入および三国間取引を行うほか、国内外における事業投資など、幅広いビジネスを展開している企業だ。同社の業務改革にABBYYのAI OCRが活用されており、生産性向上を実現しているという。AI OCRの導入やその効果についてIT・デジタル戦略部 DXプロジェクト推進室のメンバーにお話を伺った。
■入力作業の効率化にAI OCRを導入
「当社はディビジョンカンパニー制を導入しており、各カンパニーの現場に近いところに情報推進室を設置し、現場の声を吸い上げるようにしています。一方、カンパニーを超えて共通で使うDX基盤においては、IT・デジタル戦略部が構築しています」と、IT・デジタル戦略部 DXプロジェクト推進室の山地雄介氏は説明する。
ITデジタル戦略部がDX基盤の構築をはじめた当初、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)の導入を進め、これまで人が行っていた作業をソフトウェアロボットに代行することで生産性の向上を図った。業務プロセスや業務自体にもRPAを活用できるように変革を進めた結果、多くの成果を上げている。
RPAの導入から数年が経ち、多くの業務でRPAが活用されるようになったが、受発注などの業務については紙の帳票で取引が行われており、RPAだけでは効率化することができなかった。そこで、AI OCRの導入が検討された。
「各カンパニーが異なる分野でビジネスをしていますが、紙帳票での取引は多く、その場合、RPAの活用は難しいです。そこでAI OCRを使って紙の帳票をデジタル化しようということになり、いくつかのAI OCRについて実機検証を行った上でABBYYのAI OCRソリューション導入を決めました」と、IT・デジタル戦略部 DXプロジェクト推進室の鍋谷峻介氏は話す。
■業務改革に活用できるAI OCR
ABBYYのAI OCRは、NLP、機械学習、深層学習などが一つのプラットフォームにまとめられており、簡単な固定帳票から複雑な非定型帳票まで、あらゆる種類の文書を取り扱うことができるソリューション。複数の形式が存在している受発注業務も、それぞれの「定義」を用意することで対応可能だ。読み取り精度と拡張性が高いという特長を備え、企業規模を問わず導入が進んでいる。
「特定のカンパニーでノウハウなどを蓄積し、その結果を基に各カンパニーに展開していこうと考えました。そうすれば、問題が起きたときに迅速に対応できますし、各カンパニーへスピーディーに展開できます。ABBYYのAI OCRはスモールスタートが可能で、大規模システムでも使えるスケーラビリティの高いソリューション。我々がやろうとしていることにマッチしていると感じました」(鍋谷氏)
また、オンプレミスで構築できるのも魅力だったという。
「当社は取り扱う帳票の機密性が高いため、クラウドに保存する際のリスクも十分考慮しなければなりません。もちろんサービスプロバイダー側でセキュリティを確保しているとは思いますが、当社がコントロールすることができないという点が気になりました。そのため、オンプレミスでも使えるABBYYは非常に魅力的なソリューションでした」と山地氏は説明する。
カスタマイズがしやすく、現場のニーズに応えられる点も大きなメリットだった。
「PoCをした中で、構築は簡単でもカスタマイズは難しいというAI OCRもありました。読み取るだけではなく、マスターと結合したり、他システムと連携したりできなければ、業務改革に使えませんし、確認・修正する画面についても作り込めなければ、現場で使われなくなるリスクがあります。その点、ABBYYのAI OCRはカスタマイズしやすくユーザビリティにも優れていました。そこで導入を決めました」(鍋谷氏)
同社では、ABBYYのAI OCRとRPAとを組み合わせることで、年間4万9千時間弱を削減。AI OCRだけでも約9千5百時間の削減を実現している。AI OCRを導入したことで、多くの工数が削減され、業務改革に寄与していることが分かる。
「AI OCRを導入した当初は“手入力の方が早い”という声もありましたが、RPAと連携することで業務全体が効率化できることを説明したり、現場からの細かな要望に応えたりしているうちに、だんだん利用者が増えてきました。今では、“AI OCRで生産性が上がった”という声も届いています」(山地氏)
AI OCRは受発注や貿易などで活用が進んでいたが、最近では決算の分析にもAI OCRが使われようとしている。取引先が多いカンパニーでは決算書分析の専門部署を設置しているが、その工数が大きく削減され、分析結果も短い時間で得られるようになる見込みだ。
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■グループ会社への展開を視野にDXを加速
RPAやAI OCRの導入をきっかけにDXが浸透している同社では、現場でも業務改善していこうという意識が高まっている。
ここで、IT・デジタル戦略部 DXプロジェクト推進室の永井夕莉花氏は「AI OCRのように効果が高いツールでも、我々が強制的に使わせることはできません。現場のニーズに合わせた柔軟な開発ができるABBYYのAI OCRは、その点も優れていると感じています」と感想を述べた。
現在は、当社のカンパニーを中心に業務改革を進めているが、今後は、グループ会社全体のDX推進が大きなミッションとなっている。
「グループ会社には多くの事業会社があり、業種業態もさまざまですが、受発注などのプロセスが似ている業務もあります。そういった業務で我々のノウハウを活用すれば、効果が期待できます」(山地氏)
ITデジタル戦略部では、各カンパニーやグループ会社からDX推進についての相談を受けたり、コンサルテーションを行ったりしている。
「最近はAI OCRについて相談を受けるケースが増えています。スペックや機能に注目してしまうケースもありますが、そういった視点だけではなく“業務改善に使えるか”という視点を持つことが重要だと説明しています。どんなに機能的に優れていても、別のツールやシステムとの連携ができなければ、業務全体の効率化は図れません。そういったノウハウなども、しっかり伝えています」(鍋谷氏)
業務改善のための経費を持たず、DX投資のための予算捻出が難しいケースに対しては、「グループ会社の費用対効果を上げるため、蓄積したノウハウを積極的に提供していきます」(山地氏)とのことだ。
DXの必要性が謳われ、多くの企業がDXに取り組んでいるが、中には短期的に一定の効果を出せてはいるものの、デジタルを使った業務変革までたどり着けていないケースもある。伊藤忠商事のDXは、現場に寄り添いながら地に足が着いた改革を行う重要性が感じられる事例だ。DX改革が進む中、同社の取り組みに注目が集まっている。